根津と時々、晴天なり

大好きなものをひたすら言葉を尽くして語りたいブログです。

SHOW BOY@シアタークリエ 観劇の記録

 シアタークリエ『SHOW BOY』を観劇してまいりました。

 このご時世、観劇できるかどうかは本当に直前になるまでわからず、公演が中止する可能性も大いにあり得ると(それはとても悲しいことですが)思っていたので、ぎりぎりまで公演の存在を意識しないよう生活をしていました。ずっと楽しみにしていて、いざ中止となった場合のショックからの回復に時間がかかること間違いなし…。それは自分なりのメンタルヘルスケアですが、この1年半近く、至る所でたくさんの人が悲しんできたし、今も苦しい思いをしている人がいることは事実。まずは無事に観劇できたこと嬉しく思うのと同時に、関係者の方々の感染対策に感謝したいところです。

 

※以降、ネタバレありなのでご注意ください 

 

初シアタークリエ

 初めてのシアタークリエでした。開演30分前からの開場でしたが、それ以前から入ることができました。案内の方々が親切で「こ、これが日比谷なのか…」と、その所作一つ一つに色めき立つ私。アンケート用紙を書くところかしら、アクリル板で仕切られたスペース一つひとつに除菌スプレーが綺麗に置いてあって「すげえな…」と思いました。はい。半券のもぎりは自分で、エレベーターは人数制限あり、劇場内では会話はお控えくださいという案内が大事ということでよく回っていて、感染者を出さないという意識がとにかく徹底されていたように思います。

 シアタークリエは約600席。観劇歴が少ない=訪れた劇場も少ない為、水準より広いのか狭いのかはわからないけれど、私は「ちょうどよいな」と感じるキャパシティでした。

 舞台には暗転幕(多分)が下りていて、暗がりの舞台上には甲板のセット。事前情報なしの私は、この時点で、物語の舞台が客船なのだと気づきました。HPも一応見たのですが、あらすじとかは載せないスタイルなのか。そもそもSHOW BOYに行こうとしている時点で事前情報を知っていると踏んでいるのか、それはわからず。

 

SHOW BOY 全体的な感想

 まず上演終了後、私の感想はまず「Endless SHOCK*1みたいな末永く続いていく作品になるんじゃないか(なってほしいな)」というものでした。それぐらい、ふぉ~ゆ~がSHOW BOYをやることのメッセージ性が高いなと。ふぉ~ゆ~抜きのSHOW BOYはあり得ないなと、そう思いました。そもそも私がふぉ~ゆ~を知ったのが他ならぬEndless SHOCKだったということもあるのですが。

 次に、とても充実した2時間半でした。脚本が緻密に練られていて隙が無い。本読みなので、物語上に散りばめられた伏線が回収されていく様、ああ、あの場面はそういうことだったのか、という気づきがもたらす快感はやっぱりいいですよね。ストーリー構成については後程別で書きます。

 最後に全体的な印象として「声が良い人が多いな」と思いました。視力が悪くてオペラグラスも持っていなかった私は、実はキャストの表情が全然わからず、動きと声で演技を楽しんでいたわけですが、皆さん、いい声をしていらっしゃると思ったのでした。私自身がアニメを好きなのもあるのかなあ…どうなんだろう。発声の仕方が演目毎の指導によって違う、ということはある?他の劇では「いい声しているなあ…」と思うことはなかったので、単純にここ数年で私が観劇に際して着目するポイントが変わったのかなんなのか。

 

ストーリー

 舞台は客船のキャバレー。その日最後のショーが始まる開演1時間前から物語は始まります。SHOW BOYを観劇している私たちは、「物語内のショーを観ようとしている観客」であり、かつ「物語を俯瞰して見る神的な視点を持つ目撃者」でもあります。この視点のズレがひとつポイントになります。面白いですよ~。

 物語は、最初のイントロダクション的なものの後に、第1話から第5話で構成されていました。(公式パンフレット買わなかったので、あくまで私が整理したものですが。)

 第1話から第4話までは、開演1時間前から開演直前(10分前とかそこらへんまで)の時間を、異なる4つの視点で切り分けています。文字で説明するの怠いなと思ったので、表にして整理しました。

 

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 私は、「1.intro」にてSHOW BOYのメインテーマをキャストで踊るやつは、客船のその日最後のショーのオープニングそのものだと思っていたのですが、どうでしょうね。このintroを起点に「と、その前に」という合図でもって、時間の巻き戻しが起こる認識です。合っているかしら。この物語のからくりが分からない初見で、introと2の「裏方とダンサー」の繋ぎに何が起こったかなんて覚えてないですからね、ああ、それだけ確認したいからあと1回は確実に観たい!

 観劇していて恩田陸の『ドミノ』っぽいなあ…と思いました。他にもこのような同時並行型?の話は多く存在すると思いますが、私がパッと挙げられる作品だと『ドミノ』?あとは『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』の終盤、ハーマイオニーが逆転時計を使うやつ、みたい、と考えてもらえればわかりやすいかもしれない。

 このように、構成として簡単ではないので、戸惑う人もいるかもしれないなあと思いました。これぐらいごちゃごちゃしている方が歯ごたえがあって好み!という人ももちろんいるでしょう(私はこのタイプ)。

 

 裏方、ギャンブラー、マフィア、見習いが主人公となり、それぞれ『SHOW BOY』状のストーリーでは1~4話と設定されています。各話切り替わる前に「と、その前に」という口上で以て時間が巻き戻ります。ここの演出が見事で、舞台上は暗転、下ろした暗転幕に映像が投射されるのですが、次の話は誰誰が登場しますよ、というのがもうわかりやすくかっこよく紹介されててな。初見だと次は誰の番かわからないので、どきどきわくわくでした。SHOW BOYは字幕の移し方が凝ってて良かったなあ。シンプルに各話のタイトルが表示されるのだけど、そのシンプルさにセンスを感じました。各話ちゃんとタイトルがあるのですが忘れてしまったので、便宜的に出てくる登場人物で以下に紹介します。

 

裏方とダンサー

 「叶わぬ夢の下、と、憧れたあの人がいない舞台の上で」というお話。裏方が福田さん、ダンサーがジャニーズの高田翔さん。

 舞台前なのにイマイチ力が入っていないダンサー。本当は踊りたいのに事情で踊れない自分。だらしない後輩にガチで怒る真面目さや情の濃さを持ちながら、直前で踏みとどまり冷静に相手と会話しようとする裏方さんって、いい人だな…と思いました。そりゃあ、惚れる人もいるよね。

 印象的だったのは、甲板の上、夜空の下で先輩と後輩、お互いの本音をちょっとだけ明かした後で、でもやっぱり状況は変わらない。「先輩踊ってくださいよ」と言われて「よっしゃ、やります!」となるのかと思ったら、この時点ではやっぱり裏方は裏方のままで、引き続き牡蠣にあたって出られなくなったDIVAの代役を探すのが良いなと思いました。人生ってそんなに上手くいかない。この最後のシーンの裏方さんのカラッとした声音がいいなあと思いました。やらないといけないことをやらなければいけない。それって、大切なんですね。

 

 メタ的な話だと、裏方の福田さんはジャニーズの中でも様々なアイドルのバックダンサーを務め、デビューはせずにジャニーズJrを卒業?したふぉ~ゆ~のメンバーであり、高田さんは福田さんの後輩。当然ステージ上のキャリアも福田さんの方が積んでいるでしょうから、「俺より先輩の方が上手いのに」というダンサーの言葉は結構刺さりました。

 

ギャンブラーと少女

 「ギャンブルに向いてない優柔不断な男と強かな少女の交流」の話。

 訳ありで勘当されてしまい妹の結婚式に行くためギャンブルで一山当てようと思ってカジノに乗り込んだけれどボロ負けしたギャンブラーと、事情があって彼と行動を共にする少女の話。少女の率直な物言いがギャンブラーという表の仮面を剥がしていきます。

 性別も年齢も、その他立場や身分や国籍が異なっていても、人間何処かで共鳴し合えるというのはSHOW BOYの一つのテーマなのかもしれないな、と思いました。最初は語気が荒いギャンブラーですが、少女と交流をしていくうちに言葉が柔らかくなり本来の彼に近づいていっているのかと思うと興味深かったです。表のトリックスターはマフィアでしょうけれど、実は彼よりもギャンブラーの方が色々とやらかしているのもポイントです。第5話のギャンブラーは最初から最後までぶっ飛んでる。

 SHOW BOYは叶えてこなかった夢を叶える話でもありますが、さて、ギャンブラーの夢は叶ったのでしょうか。裏方、マフィア、見習いは一つ夢が結実したような気がしましたが、ギャンブラーは?少女と過ごした束の間の時間、それは失った妹との時間の追体験、だから間接的に夢は叶ったのかな。どうなのだろうねえ。少女が持っていた大金が結局どうなったのか追いきれなかったので、やっぱりもう一度見たいですね。

 

 ギャンブラーを演じる越岡さんですが、「おい!(荒い)」とか「くそ!(荒い)」とか、語気が荒めだったのか私はお気に入りポイントでした。ほら、越岡さんという人、穏やかでほわほわしていらっしゃるので…。かっこよかった…(越岡推し)。

 また、兄妹というよりは、おじさんと姪のような年の差の赤の他人であっても心が通じ合うそんなひと時、という図は私の好みでした。

 

マフィアと通訳と支配人

 「家族の為に気乗りしない裏家業に足を突っ込んでいるマフィアと、取引の為に駆り出された通訳と、キャバレーの支配人」の話。マフィアはふぉ~ゆ~の松崎さん、支配人は中川翔子さんです。

 まずは、支配人がストーリーにがっつり絡んでくるとは思ってなかったのでちょっと意外に思いました。それこそEndless SHOCKのオーナーのように、キャストを見守り導くイメージを持っていたので。

 客船で行われる銃の取引。マフィアは銃を用意し対価として大量のチップを受け取るはずが、それはこの国の当局による隠蔽捜査?であり、逮捕を間一髪のところで回避したマフィアは、何故か手錠でつながれてしまった通訳を人質に、客船内を逃走する、という流れ。手錠を外したマフィアは通訳と分かれ、何も知らない支配人から「あなたDIVAの代役?」と勘違いされ、なんと今夜最後のショーに出ることに。

 この話で大切なのは、マフィアは中華圏の人であり、支配人とは言葉が通じないという点。身振り手振りによるコミュニケーションはところどころミスがあるけども、不思議なことに着地するところには着地する。ステージに立てないと尻込みするマフィアを勇気づけるべく、支配人は自分の中にある蟠りをマフィアに語りかける。まるでもう一人の自分を解きほぐす様に。そして二人は意気投合していく…。

 SHOW BOYのセットでいいなあと思ったのが、可動式ドアと鏡が張られた化粧台なのですが、控室でマフィアをセットしていくシーンでは、記憶に違いがなければ、支配人もマフィアも観客に背を向けていたはず。観客は鏡に映った彼らの姿を見る構図だったと思うのですが、結構新鮮だな~と思いました。鏡って重要なアイテムだな~なんて。

 あとは、マフィア役の松崎さんの台詞は中国語も多かっただろうにちゃんと消化されていてすごいなと思いました。松崎、おそるべし。

 

見習いとマジシャンとエンジェル

 最後は、見習いとマジシャンとキャバレーのメイン歌手ことエンジェル。場面はその日客船で行われていた年に1回の見習い試験から。10年目になる見習いは、この試験をクリアしないと見習い失格、客船から下ろされてしまうのですが、緊張しいな見習いは案の定失敗、師匠であるマジシャンから最後通牒を言い渡されてしまいます。失意の見習いは、客船のバーで飲んだくれている一人の天使(エンジェル)と出会い…?という話。気弱でおとなしい見習いと、サバサバとぶった切っていくエンジェルの威勢の組み合わせが絶妙でした。

 印象的だったのは、やっぱり甲板のシーンでしょう。「失敗してしまうマジックも君の前だと上手くいってしまう、不思議だね」の見習いと共に楽しい時間を過ごしたエンジェル。二人には共鳴するものがあるけれども、一方はLikeで一方はLoveになるあの微妙な間合いが本当に良かった。柔らかい部分を掬っている感じです。見習いには意中の人がいて、なおかつ恋愛指向も噛み合わない二人であることは観客には一目瞭然で、しかしエンジェルは時間差で遅れてそのことを知るので、その辺のタイムラグも良かったです。なんというか、誰が悪いというわけでもないのにね。このLikeとLoveが関係性において入り混じるやつは誰しもありうることで、個人的には考えこんでしまうトピックでした。

 なんにせよ、見習いとエンジェルは心を通い合わせた瞬間があって、それは素晴らしいことなのだと、そんな感想に収束してしまいます。うまく言えないですね。

 

 辰巳さんは、発声の時点で「真面目な好青年」になるのがずるいです。好き。

 

好き勝手に好きなところを語るSHOW BOY

 これまで様々なグループのバックダンサーを務めてきたふぉ~ゆ~ですが、そんな彼らが主役となる構図が既にずるいなと思いました。この文脈を理解している人とそうでない人で、ストーリーの響き方が変わりそう。そういうところが面白い。個人的に「オラ、わくわくすっぞ」となったのは、支配人・中川翔子が真ん中でどーーーーーんと歌い上げるところで、それまでの主役モード・ふぉ~ゆ~だったのが、バックダンサーモードになるところ。ここ、すごく良い!「誰かを演じるふぉ~ゆ~」と、「ふぉ~ゆ~であるふぉ~ゆ~」と、「誰かの影となり引き立てるふぉ~ゆ~」と。彼らの様々な面を見ることができるというのが、このSHOW BOYの良さであり、なおかつ、ストーリーとしても破綻していない、過度な演出になっていない絶妙なバランス感覚が見事だと思いました。そしてふぉ~ゆ~のことそこまで知らない人が見ても、きっと面白いと思える舞台であると、自信を持って言えるクオリティなのもすごいです。「嫌いになれるやつがいない」というのは、いいコンテンツなんじゃないかなと思います。(もちろん「嫌いになれるやつがいない」ことが、良いコンテンツである為の必要条件ではないのですが。)

 

 繰り返しになるかもしれませんが、世代性別人種国籍、様々な違いはあれど、人は誰かと交歓できる瞬間がある、というメッセージが好きです。心が通い合うというのは、それは時間の積み重なりで必ずしも生まれるものではなく、瞬間的なことだってあるのだ。

 あとは、自分がミュージカルの身体だからだと思うけれど、「踊って歌って食べて飲めば仲良くなることってあるよね」と思いました。時々、「急に歌って踊りだすミュージカルってのがよくわからない」という意見を目にするし、冷静に考えれば「確かにな、意味わからんよな」と思うのだけど、事実、私は自分の感覚として「歌って踊って食べて飲めば仲良くなれそう、その気持ちわかる!」という身体なので、魂の叫びを歌に乗せ体の動きに宿らせる、ミュージカルのフォーマットに則った素敵な舞台だったと思います。

 長く続く舞台になればいいなあ。積み重なることで深まる劇ではないでしょうか。

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*1:KinKi Kids堂本光一が主演を務めるミュージカル作品「SHOCK」シリーズのこと。Endless SHOCKとは正確には2005年から光一さん自身が脚本・演出・音楽すべてを手掛けているようになった上演のこと。