根津と時々、晴天なり

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【ドラマ】『黒井戸殺し』感想

ドラマ『黒井戸殺し』を観ました。

とても、とても、面白かったです。脳内痺れた。ラスト15分くらいはひたすら呻いていたと思います。ひゅーひゅー言っていたと思います。観終わった後に「最高だわ...」とも思いましたです。

 

以下ネタバレ付きの感想となりますので、真相を知らない方はご注意お願いします。

 

床の音 ドアの音

贅が尽くされた作品というのは本当に良いものです。

大富豪の屋敷。執事。豪華な晩餐。チュニジアの短剣。ウイスキー

庶民の自分にとっては一生縁のない世界。そもそも時代も異なります。ですが、時々全く自分とは相いれない世界の話に浸るのがこんなに面白いなんて。今回の『黒井戸殺し』は、屋敷の様子もそこで生きる人々の所作も、申し分ないと感じました。視覚と聴覚で贅沢さを感じることができたので、私、非常に満足しています。

 

例えば。ドアの音が良かったです。真鍮製なのか何なのか、ドアノブがガチャリと回される音。ぎぎぎっと木製のドアが開く音。床の音も同じように良かったです。カリカリと文机に向かって書きものをしているシーンも良かった。

 

脅迫することのリスク

今回の話では「脅迫することのリスク」について考えさせられました。あるいは、誰かの秘密を握ることについて。

まず、富豪・黒井戸の婚約者である佐奈子さん。彼女は未亡人であり夫を亡くしていますが、誰かに夫を殺したと脅されているようです。夫は病死扱いで事件性はないと判断されたようですが、病死ではなく薬物による殺人だと。佐奈子さんは夫から暴力を受けていたのでそれに耐えかねて殺してしまったのではないか、と。

彼女は誰かからの脅迫に耐えかねて自ら命を絶つわけですが、これが「黒井戸殺人事件」のきっかけとなります。

誰かを脅迫する。それが元で起こるトラブルというのは、サスペンスドラマでも本当によくあることです。脅迫している側が大体不幸な結末になる(=殺される)のを何度も目にしているので、ニヤニヤしながら震える子羊をいじめる狼のごとく誰かを脅す人間が登場すると、「あんた、、、幸せになれないからやめておきなよ...脅すのは...」と思うものです。ほんと良い結末なんてないんですよね。

『黒井戸殺し』でも然り。面白いのは(←当人たちにとっては全く面白いことではないが)「脅迫」ってすごくリスキーな行いだということです。だって、脅されている本人は弱みを握られているから脅されているわけだけど、脅している本人にとっても「脅している」ということが弱みになると思うのです。脅す―脅される、強者―弱者、という構図は、多分脅している本人が思っている以上に脆い。簡単にひっくり返ります。

今回の物語では、脅されていた佐奈子が自殺を図ったことで、脅迫の関係がぶっ壊れる。しかも佐奈子は自殺する際に、黒井戸に犯人の名を記した遺書を送っているわけで、この遺書が公になれば「脅す―脅される」の関係が反転する。反転するどころじゃない。黒井戸は自ら愛する人を死に追いやった脅迫者を「脅す」には収まらず、ぶっ殺すと言っているわけで、犯人はお金だけでなく命の危険性もあったわけです。こわっ。

だから人を脅すもんじゃないんですねー。

『黒井戸殺し』では、もう1つの「脅迫」があります。今回の犯人と名探偵・勝呂です。犯人は、今回の物語の語り手である医者の柴先生でしたが、愛する家族であり余命いくばくかも残されていないお姉さまに真実を知らされないためには、君、わかっているよね・・・?ということで、半ば勝呂に脅迫されている形になります。

勝呂は自身にとって都合のいいことを柴先生に要求したのではないと思います。お金も名声も求めてないです。でも、「お姉さんに真相を知られないように...君、わかってるよね・・・?まず手記に真実を隠さず書きなさい。そして君は命でもって償いなさい。多分、お姉さまが存命の間は病死として、その後手記が公開されれば犯人の自殺として処理されるでしょう」と脅迫をしています。

ひーーーーー。このシーン最高だった!!!

 

これ、すごいなぁ...と思うのです。

脅迫というのは、弱みを握ることで相手が自分の思う通りに行動するだろうと確信できないと、できないことではないことかと思うのです。私は多分人を脅迫することができません。無理です。それは私が善人だからでなく、私が人を信じることができないからです。自分の望んだとおりに人は動かないし、人は必ず自分の想定外の行動をすると思っている人間に、脅すことで人を動かすことなどできません。

と同時に、脅迫とは自分の命を相手に委ねることでもあります。「脅す」という弱みを相手に晒すということでもあるわけで。じゃあ、柴先生が勝呂さんの言動を逐一手記に書けば?実際それは可能です。勝呂は名探偵と同時に犯人を必要以上に追い詰めた人間として公になるかも。えー。リスキー。

多分、柴先生の心中を察するに、勝呂さんの所業を手記に書く余裕はないと思うのです。なんとなく。それにお姉さまに真相を知られる恐怖の方が上回るから何もできないと思います。でもそれって、柴先生のお姉さまに対する愛情を信頼しての脅迫でしょう?もし愛情がそこまででなかったら、あるいは、柴先生が思っているほど優しい人間ではなく自分本位の人間だったら?勝呂探偵、危ない。ま、でも柴先生が柴先生で無かったら今回の殺人は起きなかったと思うので、堂々めぐりか。

 

脅迫ってリスキーだな、とだけ言っておきます。

 

勝呂ではなく杉下右京だったら

右京)「確かに、柴先生。貴方はやむを得ない理由で佐奈子さんを脅迫する必要があったそれは、愛するお姉さんの命です。」

柴先生)「ええそうです。杉下さんわかってくれますよね?姉の命はあと半年ももたない。姉を救うためには外国での手術が必要で、そのためには大金が必要だった。

私だってこんなこといつまでも続けようとは思ってなかった。でも、姉を救うためにはこうするしかなかったんです。杉下さん、わかってくれますよね?」

右京)「ええ...。柴先生、残念ながらあなたの行いを認めるわけにはいかないのですよ。

いいですか、あなたは愛するお姉さまを救いたい一心でしたことが、結果的に佐奈子さんを追い詰め死に追いやってしまった。それはつまり、黒井戸氏から愛する者を奪ったということです。あなたは、自分のお姉さまの命と引き換えに、黒井戸氏の愛する人を奪ったのですよ?愛する家族を想うあなたが黒井戸氏の気持ちをわからないはずがない。なのに、さらには自分の所業が明らかになるのを恐れ、黒井戸氏まで手にかけた。・・・。どんな事情があれ、許されることではありませんよ!!!(右京キレる)」

柴先生)「ははは…(力ない笑み)。やっぱり杉下さんは、杉下さんだ...。

わかりました。でも、最後に、杉下さん、私のお願いを聞いてもらえますか?」

右京さん)「なんでしょう?」

柴先生)「姉に、このことを黙っていてほしいのです。姉の命はあと半年です。真相を知れば、その病状にどういう影響を与えるかもわからない。姉の命を救うことはできませんでしたが、彼女には残り少ない日々を穏やかに過ごしてほしいのです。この気持ちは、わかってもらえますよね?」

右京)「ええ。(窓の外を見つめながら)そのことなんですが...。」

井間のドアがバタンを勢いよく開く。ドアから入ってきたのは、柴先生の姉・カナである。カナは柴先生に駆け寄る。

柴先生)「姉さん!!!ちょっと杉下さんどういうことですかこれは!!!(超キレている柴先生。今にもつかみかかろうという勢い)

柴カナ)「ちょっと、やめて。私が杉下さんにお願いしたの。事件以来あなたの様子が変だって。昨日杉下さんとお話したときにね、それを言って…。私不安で不安でしょうがないから...(以下略)

 

面倒になってここでやめます。とりあえず杉下右京は事件をうやむやにしないだろうなぁ...と思ったのでこんな妄想を考えてみました。真相を知る名探偵(名刑事)がどのように犯人と向き合い、事件に幕を引くのか、というのも探偵らしさが出てていいですよねー。

 

まとめ

いやー、面白かったです。キャストもぴったりハマっていて、どの演者さんも上手かった。勝呂と夕暮れの部屋で対峙した時の柴先生の表情変化すごかったなぁ...恐ろしいものを観た。他の登場人物たちも表で見えている姿の裏に、色々なドラマを隠していて、それが良いスパイスとなりました。人間、色々あるものですね。

またこのシリーズは映像化されることでしょう。その時まで楽しみにしております。ほんと、いい作品を観させてもらいました。

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