根津と時々、晴天なり

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【ポケモン】好奇心に駆動されるからだ ~最後の地をめぐりながら思ったこと~

 ポケットモンスター スカーレット・バイオレットを楽しく遊んでいる日々だ。メインストーリーはすべて終え、その後の物語を歩み始めたところ。何をやろうか考えているところだけれど、とりあえず道中のトレーナーとほぼ戦っていないので、低レベル帯からポケモンを育成しつつ全トレーナーを倒すというのをやろうかと考えている。今はどのポケモンを連れて行こうか考えていて、正直それだけで楽しい。

 

※ここからネタバレがあります。今作のとても大事な部分について語るので、これからポケモンをやろうかな、今はやらないけどそのうちやりたいな、と思っている人は絶対読まないでください

 

 

 

 

 

 

 今作、スカーレット・バイオレットをクリアした人ならすぐにぴんと来るだろう。パルデアの広大なフィールドで、唯一、私がどうしても怖くて行きたくない場所がある。

 そう、「パルデアの大穴」、またの名を「エリアゼロ」。3つのストーリーが1つに集まったその先で紡がれる最後のストーリーで、主人公たちが訪れる秘境。

 私はこの場所が怖くてたまらない。クリアした後も極力行きたくない。未来ポケモンを捕まえるだけ捕まえて、以来足を踏み入れていない。

 

 チャンプルタウンの近く、それまでは門で閉ざされ立ち入ることができなかったゼロゲートから、みんなで雲(雲なのかなあれは)の中へ飛び込んだ時は、正直そこまで怖くはなかった。何が待っているのか予想もしていなかった。

 

 荘厳。

 最初の印象はそれだ。荘厳で清らか。青々と茂る木々、草原。人が立ち入らなくなって久しいが故に、道らしい道は皆無。どうやら、地形的には緩やかに下に下に続いていくらしい。まさしく、ポケモンたちの楽園。

 怖いと感じたのはいつからだろう。やっぱりフィールドのBGMと戦闘BGMが印象に寄与するところは大きい。自然のダイナミズムと、人智を越えた何かの存在を耳に入ってくる音楽で常に意識せざるを得ない状態。あとは博士からの定期的な通信。こちらから博士の姿を見ることもできなければ積極的に通信もしないのに、向こうから一方的に降りかかってくる指示。あれ・・・? なんか、おかしくない?

 出てくるポケモンポケモンだ。リキキリンとか上の世界では一度も見たことがないのだが?巨大な蛾を彷彿とさせるモルフォンが悠々と飛んでいる姿もなんか怖くなってきた。自由に野山を駆け回るポケモンたちの姿を初めて怖いと思った(それはもしかしたら遅すぎる…?)

 

 そしてキラフロルとの戦闘。怖い。オモダカさんとの戦闘で既に「知っている」ポケモンではあるけれど、いわ・どくタイプというと、私の好きなウツロイドちゃんしか思いつかない…え、怖(ウツロイドちゃんは怖くて不気味なところが推しポイントなのです)。そしてBGMめっちゃ好きなんだけど、怖。ネモのポケモンがドリルライナー一発できめてくれて今回ばかりは安心した…。

 

 下れば下るほど、恐怖が増殖していった。観測所の博士の意味ありげな手記。おそらく、ある一定の段階にたどり着くまでは博士の周りにも同僚の研究者がたくさんいただろ。でも人が周りにいたときから博士は孤独の道を突き進んできたんだなあ。博士が置かれた孤独の冷たさが、人の姿が皆無なエリアゼロの情景と混ざって、もう、ものすごい感情になっていく。帰りたい。

 

 そうなのである。

「あ、もうこの先行きたくないです、帰りたいです」

 ゲームをしながら体の奥底でそう感じたのはいつぶりだろう。それは私が幾分「大きくなった」からではないと思う。子どもの頃も多分同じことを感じたはずだ。

 ということで、誰もがおそらく恐怖の一端を味わったであろうエリアゼロの演出、私は「すごいなあ」と思う。恐怖というのはどのように醸成されるものなのだろう。考えたことがなかったけれど、例えばホラー映画の作り方とか怪談の話法のようなものにも掛かってくる話題なので、とても興味深いと思っている、という観点が1つ。

 

 第3観測ユニットから、洞窟内に入ることになる。進みたくないけれど、進まないといけない。自分の背中を押すのは、

  • 博士は何者なのか
  • 手記の続きはどんな内容なのか
  • エリアゼロとはどういう場所なのか
  • この先に何があるのか

そういった「好奇心」に他ならない。パルデアを縦横無尽に駆け巡る冒険を今まで楽しんできたけど、もしかして、エリアゼロの深部に向かっている今が、一番冒険なんじゃない? と、好奇心で麻痺した頭でひたすらスティック操作をしながら私は考えていた。多分その通りだと思う。

 ちなみに「デリデリデリバー」(テツノツツミ)との戦闘は、本当に怖くて泣きそうになっていた。何なのあいつ(その後の道中で偶然テツノツツミ色違いに遭遇し、無事捕まえることができたので「や~ん、可愛い~~~~」という感想に変わったのも書いておく、チョロい)。

 

 洞窟内は非常に暗く、結晶体がごつごつとそこかしこにできていて、陽の光が届かないことによってより幻想的な雰囲気を醸し出している。出てくるポケモンもどことなくいかつい。キョジオーン、怖い。キラフロル、お願いだからどこかに消えてくれ。

 

 そうして最深部にたどり着いた一行を待ち受ける衝撃の出来事、真実。

  • 未来ポケモン、怖いのだが
  • でも、ハリテヤマっぽいやつだけ、なんかおにぎりに見えなくもない…?
  • にしてもタイプがわからん、弱点は何?
  • そんな、ミライドンもう一匹おったんか
  • フトゥー博士…
  • 子どもにそんな大変なこと背負わせるなや
  • てか、校長とかオモダカさんも巻き込めや
  • オモダカさんとか結構わくわくしながらポケモンバトルしてくれそうじゃん?)
  • ペパー…

 ここからタイムマシン停止を阻止するフトゥーAI(強制的にスリープモードにされ、戦闘プログラムを適用された状態)との戦闘に入る。

 

 ここの演出、めっちゃよくない???

 

 そう、ここまで2000文字超、私がまず言いたかったのはこれだ。タイムマシンを前に主人公とフトゥーAIとの間で交わされるやりとり、良くない?

 

 どうやら私は、人間が理性を手放さざるを得ない状況における葛藤、苦悩、恐れのようなものにギュッとツボを押されてしまうらしい。それは私も同様の状態に置かれることを恐怖するからでして、あの一連のやりとり、私は本当に好きで苦しくて駄目だった。

 バイオレットブックを置いたことで停止処理が走るタイムマシン、エラー、自らの宿命を受け入れ、命運を主人公に委ねたように主人公とタイムマシンの間に進み出るフトゥーAI、ここで自分とパルデアの未来を主人公に託したのだろう、跪き、一言、

どうか ボクを 倒してくれ

 私:(´;ω;`)(フトゥーAIさん…

 

 ちなみにこの演出、FF10のジェクト戦を彷彿とさせた。泣いた。

 

 あと、細かい話をすると、タイムマシンから送られてきたマスターボールが落ちるときの質感、フトゥーAIが手のひらでそれを受け取ったときの音、博士の良心でもあり理性でもあるフトゥーAIのテキストが、ひらがなからカタカナに置き換わっていく演出で、AIがただの攻撃ロボットになっていくのを表現するあの感じ。どれもとてもとても好きだと思った。

 

 あとはクリアした人なら結末はわかるだろう。多くは語るまい。

 

 この一連の冒険でゆるゆると考えていたことがあり、それは「同じ好奇心なのに、どうして道が分かれてしまうのかな」ということだった。

 博士は幼い頃からバイオレットブック(だったよな確か)に魅了され、未知なるポケモンへの好奇心に突き動かされていったのだと思う。その先に、テラスタル研究がありタイムマシン開発があった。いずれも凡人には為せない偉業だ。しかし博士が突き進んだ先には博士と博士AI以外の姿はいない。博士は完全に孤立してしまった。それは博士自身に理由があるけども、でも、博士が全て悪いのだろうか、とも思う。

 一方で主人公も(というかプレイヤーである私も)同様に好奇心に背中を押される形でネモ、ボタン、ペパーと共にエリアゼロの中枢に進んでいく。結果、主人公はパルデアを救う。どちらも同じ好奇心なのに、あるいは使命感だったりするのに。

 両者を分けたのはやはり、自分以外の他者の存在なのだろうと思う。フトゥー博士は自分をモデルとしたAIを作らなくてもいいのに、自分をモデルとしたAIを作りだしてしまったのも良くなかったのだろう。人は自己反省できる生き物だと思っているが、とはいえ、人ひとりの領域で考えられることには限度がある。現在のパルデアのポケモンと未来ポケモンが共存した「楽園」を夢見ていた博士自身が、自分以外の他者を身辺から遠ざける流れになっていったのは、めちゃめちゃ皮肉だなと思う。そのあたりはとても難しいことだと思うけれど。

 ネモの特性マイペースやボタンのシニカルなツッコミ、ペパーの鷹揚さと神経質の微妙な配分がなければ、道中、とてもじゃないが先に進めなかったと思う。主人公の周りには誰かがいた。博士の周りには誰もいなくなった。それがいちばんの違いだと、私は思う。それをエリアゼロというフィールドで実感としてプレイヤーに体験させるような仕組みを作った制作側、すごい、と私は思うのであった。ほんとよくできていると思う。

 

 フトゥー博士とそのAI、ペパーの気持ち、真実、結末。それらとエリアゼロという特異的な空間が混ざりに混ざって作り出された何かの感情が骨の髄まで染みこんで、やっぱり、今もエリアゼロに行くのは気が進まない。おそらく時間がある程度解決してくれるだろう。解決する前に、今、そしてあの時の気持ちを残しておきたくて、こうして考えをまとめるに至った。ポケットモンスター バイオレットを買って、遊ぶことができて良かったなと、思っている。