この世界を信じることができる。
そう思える対象を持てることは、限りなく幸せなことだと思う。
もちろん、盲目的に信じることは危険なことだ。「その対象を信じている自分はどう他者から見られているのか」。開き直ることなく真正面からこの視座を受け止めることをしなければ、例えばモンスターと化し人々に呪いを振りまくオタクになり、例えば街に毒を撒く宗徒となる。
が、そこまで悪化させなければ、ほどよく人生を豊かにする指針となるのではないか。何かを信じるということは。
ということで、私は映画『ペンギン・ハイウェイ』の世界を信じたい。この世界に憧れを抱く人間の一人なのです。
世界の不思議を不思議のままに
『ペンギン・ハイウェイ』の魅力の1つは、世界の不思議を不思議のままにしていることだ。「こんなくだらないこと」「こんなこと考えて何か意味あるの?」小さいころ、早々にそう言って私は一蹴してしまったことを、主人公である小学四年生のアオヤマくんは大切に大切にしている。
研究対象をいくつも持ち、対象ごとにノートを分け、毎日毎日机に向かう。「がり勉」とは違う。彼の関心は教科書の中のことに限らず、野にあるからだ。体系的に知識を得ている姿は、いっぱしの研究者である。
私は、こういう子になりたかった。なればよかった。
NHKラジオで夏休みにやっている「夏休み子ども科学電話相談」が好きな人は、きっとアオヤマくんを微笑ましいと思える映画だと思う。
日常に潜む愛しさ
映画を見た人だとわかると思うけれど、この映画、突如出現したペンギンたちの謎にアオヤマ少年が挑むSFファンタジーなのだけれど、映画の冒頭約3分くらいかな、どう考えでも住宅街には似つかわしくないペンギンがぺちぺちと街中を冒険するカットが流れる。ただひたすら音楽が流れ、ペンギンにとっても我々見る者にとっても「初めまして」の住宅街の風景がただただ流れる。それが、ひたすら美しいのです。
この住宅街は実際に存在する街を参考にしているようでリアルに描かれていると思うのだけれど、加えてアニメーションの醍醐味だろうか、鮮やかな光と影と色の強弱がついた街並みは本当に綺麗です。ちなみに私はこのカットで既に泣いていました。同行者がいたらさぞかし興醒めさせてしまったことでしょう。綺麗だと思えるものを見ると、泣いてしまうんだよなぁ…。
それはさておき。
私の友人でとびきり上手に絵を描く人がいるのですが、その人のことを私の家族は「○○ちゃんは、よく見ているからねええ」と言います。描くことは、見ること、みたいです。この映画を作った人の頭の中、そしてアオヤマくんが見ている世界がこんなに綺麗ならば、まあ、世界を信じてみてもいいのかもしれない。そういう気分です。
何を言っているかわかりませんが、とにかく、絵が綺麗。絵が、可愛い!!!これです!!!
ホラーより、もしかしたらホラーかもしれない
SFファンタジーだ!!!と言いながら、その実、中途半端なホラーよりよっぽど怖い。それも『ペンギン・ハイウェイ』ではないか、と思っています。
「ホラーよりホラー」という評価(個人的感想)を背負っているのが、物語のキーアニマルである愛くるしいペンギンたち。私は可愛いと思うのだけれど微妙に気持ち悪いさもある。ボディはぽてぽてしていて可愛いことに違いはないのだけれど、多分怖さを感じるのは、その目。何を考えているのかまるでわからない、くるっとした黒目が怖いのか。
ネタバレになるのであまり深くは言わないけれど、青々と光る空にふわふわの雲が見えるあの駅で、「きええええええええええええええええい!!!!」とペンギンが声を上げ震えた瞬間は、本当に、本当に怖かった。とんでもない映画を見ていると思いました。
お父さんが、素敵
『ペンギン・ハイウェイ』の世界は、あまりに整っているがあまり非現実的な日常空間なのですが、それでも言いたい。アオヤマくんのお父さんが素敵です。こんな世界に生まれたかったよ私。
息子の研究を温かく見守り、時には指南する。決して息子を否定することは言わない。くだらないとも言わない。一人の人間として尊重し、向き合う。こういう距離感が素敵だなと思いました。
アオヤマくんはノートを使いこなす名人ですが、その方法を教えたのもお父さん。原作では問題解決の方法としてアカデミックな雰囲気でやり取りしていた気がするからもう一度読み直さないと!!!(ちなみに、原作は図書館本で読了済み。いつかゆっくり手に入れないとなぁ~本買わないとと思っていて忘れていたけれど、この度映画を見て愛しさが天井突き抜けてしまったので速攻で文庫本を買いました。)
他にも言うことに尽きない物語ですが、そろそろ終わりにしたいと思います。他にもハマモトさんがブチ切れたシーンは私の映画史上でもベストシーンじゃないかというぐらい、気迫がすごくて体がびりびりしましたし、ラストに向けて一気にペンギンたちが駆け抜けるシーンは本当にすごかった。この映画が評価されない世界なんてロクなものじゃないけれど、まあ、多分大丈夫でしょう。素敵な映画だもん。
不思議を大切に。私もアオヤマくんのように世界を面白がることができる人間になりたいし、何歳になっても世界の不思議を見つけられる人になりたいです。
良い映画でした。
(パンフレットも買ってしましました。後悔はしていない。)