根津と時々、晴天なり

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【ドラマ】二夜連続ドラマスペシャル『そして誰もいなくなった』

 テレビ朝日系 二夜連続ドラマスペシャル『そして誰もいなくなった』を、リアルタイムで観てきました。「このドラマは素晴らしい」「このドラマは面白くない」という感想を述べるのは少々つまらない気もしているので、今回は個人的に気になった「妙にここが好き」というポイント中心にまとめていきたいと思います。備忘録的に。

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(公式HPより http://www.tv-asahi.co.jp/soshitedaremo/

 

 

 

監視カメラでの再現

 このドラマは超有名な原作を下敷きに映像化されたものですが、内容としては孤島のホテルに招待された8人+執事夫婦合わせて10人が次々と死んでいく様を10人の目線に立って追っていく1部と、10人はどのように殺されていったのか、このような悲劇を作り上げた人物は一体誰なのか、という真相を風変わりな刑事が明らかにする2部で構成されています。大体時間にして3/4から3/5が1部で残りが2部。2夜連続ですが、1夜まるごと+2夜の前半で10人が殺されていく様を描ききりました。犯人は既に亡き者なので、刑事さんは犯人の挑戦を解きながら最後は密かにホテルに隠されていた監視カメラの映像と、あらかじめ撮影された犯人の独白映像で真相をすることとなります。

 そういうわけなので、所々で監視カメラの映像を警察で調べる場面が出てきます。ここが私はとても面白いなぁと感じたところです。要は1部で存在したシーン、例えばみんなで食事をとりながら、過去の罪を告発されて各々動揺するシーンですね、は1部では登場人物の表情の変化や視線が交錯するアップの撮り方だけれど、同じシーンを少なくとももう1本監視カメラ用として俯瞰した形で撮りなおしているのかなぁ…と思いまして。撮りなおさないと、多分カメラが映っちゃうと思うから。我々が1部で見ていた、登場人物の鬼気迫る表情とは別に、ちょっと引いた視点を提示していたのは面白いなぁと感じました。引きの映像で見るとこんな風に見えるのだな~なんて。

 

相国寺刑事さんの変人っぷり

 事件の真相を追っていく変人刑事さんの名前は「相国寺」というのですが、この相国寺さんがかなり変で面白かったです。途中で「ある大きな謎」にぶつかるのですが、それにこれから挑もうとしたときの「フフフッ」という、気持ちが悪い笑い方が最高に素敵でした。あの気味悪さってなんで気味が悪いと思うのだろう?まず唐突すぎるタイミングでの笑い、そしてここで笑う?という状況で思わず出てしまった笑い、目が笑っていない、どこか機械的。そんなところでしょうか?とにかく変態じみた笑いだったので、とても印象に残って一気にこの刑事さんが好きになりました。この刑事さんも、正義感のボーダーとかちょっとあやふやなタイプかもしれないけど、最後はやっぱり犯人の言葉への返答として「殺人は、芸術じゃない」と言ってしまうのですね。気になる。あとは、直角に曲がる癖とか、姿勢の良さとか、DVDテープをぐーっと集中してみながらずーずー牛乳パックをストローで飲んでいるんだとか、部下への態度とか、ちょっと杉下右京さんぽい仕草とか(人差し指をたてるところとか、そのまんま右京さんでした)この刑事さんでそのままドラマ作れるだろうなぁ、作らないかなぁ、と思う印象深い刑事さんでした。人の仕草について考えるのは、面白い。

 

あの俳優さんがばっさばっさと…という贅沢

 有名なアガサ・クリスティーの作品だし「二夜連続ドラマスペシャル」って銘打っているし、10人の登場人物たちそれぞれ存在感のバランスが大事そうだなぁ~という内容で、それはそれは豪華な俳優陣の方が出てくる出てくる、って感じで、それだけで贅沢な気分になりました。さらに、どの登場人物も殺されてしまうお話で、普段は別ドラマで犯人を追い詰める役を演じられている人が死んでしまう演技とは…この人が殺される話はもう見られないだろうなぁ…ということばかりで、それもまた贅沢。向井さん演じるミステリー作家が死んでしまうところは、「ああぁ、、、、向井さん、、、、(´;ω;`)」ってなりました。早々に殺されてしまいましたけれど。あのミステリー作家が後半も生きている設定だったら、それはそれで場の雰囲気も変わっただろうと思うので、とても残念です。元ボクサーで30代の男性ということもあり武力ナンバーワンの作家さんは早々に片づけないと、今後の殺しの計画に影響してしまうのだろうなぁ、だから最初に殺しちゃったのかなと思いました。

 

ドラマとその外の世界

 今作は、作中で重要な役を演じられた方が実際に亡くなられた直後に放送されたこともあり、また演じられた役も非常に「どうしてこの方がこの役を…?」と思いたくなる役どころであったため、どうしても現実を生きた生身の人間の面影が、ドラマ自体は作られた虚構の世界なのに、残ってしまうドラマとなりました。ドラマが放送されるタイミング、編集、その他色んなものに影響がなかったとは言いきれませんし、影響があって何か悪いのか?とも思います。私が感じたのは、やっぱり虚構の世界だとは言え、現実を生きる生身の人間が演じるのであり、その上で虚構を作る世界があるのであり、そういうものと虚構というのは切っても切り離せないのだなということです。色々と作られる世界はたくさんありますが(小説も映画もドラマも漫画も音楽も絵もその他様々なものですね)時代背景や周辺をとりまく環境は考慮する必要が、時には求められることもしばしばある。

 ただ、私は今回のドラマに限っては、そういうドラマの世界の外側にある事情と、ドラマそのものを切り離して考えたかったなぁと、なんだか思ってしまったのかもしれない。誰の何が悪いということを指摘したいわけではなくて、あくまで物語を楽しむために私はドラマの外の事情は極力排除したかった。ああこの人はこのセリフを言うときどんな気持ちだったのだろう?どんなことを考えているのだろう?身体はどういう状態なのだろう?その言葉が、その立場というか状態があまりにも重すぎて、ラスト20分ぐらいはテレビの画面を直視できませんでした。が、本当にこの役はこの人がやるのが一番良かったのだろうなぁと思わせる圧巻の20分だった気がします。

 

殺人衝動のお話

 「ちょっと待って...ちょっと待って、ちょっと待って...」

 今まで流暢に言葉を紡ぎ、己の壮大な殺人計画を滔々と話して聞かせる犯人は、そう言葉を濁し、自分に自答すること数秒間。そこから一瞬でスイッチが入ります。「正直に言おう!!!!!」と。ここの切り替えに、鳥肌がたちました。犯人さんは自身が言うように正義感があって厳しい方ですが、とても落ち着いている冷静な人物。頭が切れて、知的で、言葉の端々に厳しさが見え、だけど紳士的でもあったように思えた。そんな人が、一瞬だけ荒々しくなった。理性を保ったままで、一瞬だけヒューズが飛んでた。あの瞬間の演技は素晴らしかったです。

 フィクションで描かれるサイコパス的な犯人は、頭が切れて人を痛めつけることを楽しんでいる反面、やっぱり「狂っている」という面がどんどん強調されて描かれているような気がしていたけれど、今作のドラマでの犯人は(サイコパスなのかどうかはさておき)最後まで狂っていなかったというか、とても落ち着いていたのですよね...。言っていること、これからやろうとしていることは無茶苦茶なのですが、もうその人のなかでは当然のことで自明の理で、すごい堂々としていて。

 

それでも殺されてしまう人々が可哀想です

 犯人の独白がドラマのすべてをかっさらってしまったけれど、法では裁かれない罪を抱えた人たちがどんどん追い込まれていって、殺されていってしまうのは可哀想だなと思いました。それこそ、10人(実際は9人だけど)が追い込まれていくパートは2時間では描ききれないくらい、人間の恐れとか罪深さとかそういうところが濃いパートだと思うのですので、ああもっとこの演者さんでドラマを観たかったなぁと思いました。罪の深さを比べることってできないのでしょうけれど、この人はそんなに断罪される罪?と思ってしまった人がいくつかいるのも事実です。正義でもって罪人を裁くというよりは、人を殺してみたかった、というところが強めに印象付けられてしまった感があるところは作品をどう捉えるかによるのかなと。キャストが豪華だったこともあり、もっとこの役者さんでの演技が観たいなぁと思いました。私は、10人がそれぞれの罪の意識に苛まれる描写を時間をかけてたっぷりを想像したいかも。

 

 

 ということで、非常に見ごたえあるドラマでたっぷり楽しませていただきました。 

 ドラマの内容とは別に、命というのは有限であるということ、人は突然にいなくなってしまうのであり、楽しもうと思ったタイミングを逃すと「次」は無いということが起こりうるということ(その方が自然なこと)を、考えさせられました。良かった~このドラマ観ておいて。そう思いました。