根津と時々、晴天なり

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【読書】それは「信頼」の物語だと思った―横山秀夫『64』を読んで―

 さよなら8月。こんにちは9月。

 ということで、9月になりました。特に言いたいことはありません。おしまい。

 あ、でもほのかに朝起きると秋の薫りがするようになって嬉しいです。春と秋は匂いがあるよね。

 

 さて。図書館で見つけました。あっという間に読みました。

 

64(ロクヨン)

 前編・後編で映画化もされた横山秀夫さんの『64』

 あっちゅーまに読みました。いや~すごい話でした。傑作でした。

 

 あまり多く語るつもりはないので手短に。

 

 この事件はD県警の広報官が主人公の話。警察ものだからミステリーかと思いきや、その要素はあるものの、この本の面白いところは一人の人間が組織の中でどう生きていくのか、というところに尽きると思いました。広報官・三上の内面が惜しげもなく提示され、読み手は彼の一喜一憂に付き合わなければいけません。この本の感想に「主人公が悶々としてなかなか進まない気がした」みたいな内容がありましたが、むしろそれを堪能する小説だと思います。謎解きとか下剋上の物語とかいくらでも脇に逸れることができるのに、三上の心情をとことん書ききった。一人の人間の内面を深堀できるのは他ならぬ小説の面白いところであり、魅力です。

 普通だったら納得のいかない人事に腐りつつも与えられた場所で自分の存在を見出し仕事に励んでいく、みたいな展開でしょうけども、三上さんは割り切ったと思ったら厭らしい上司にウダウダ言われてまだ腐った自分に戻って、みたいな葛藤を一回ならず何度も繰り返しますからね。でも、人間ってそんなストレートに何でもうまくいく生き物じゃないよなぁそこらへんリアリティあるわ~と面白かったです。

 

 見どころは、広報官らしく記者クラブとの競り合いというか関わり方、です。「信頼」の物語、と評したのは何故かぜひ読んでいただきたいですが、信じる者は強く自由で開けているのだな、と思いました。「信じる」という選択をした人間と、「信じない」という選択をした人間がそれぞれどこに行きついたのか、色々と考えさせられました。ぼやかした言い方ですけども。

 

 読みごたえ抜群ですので。ぜひ。