根津と時々、晴天なり

大好きなものをひたすら言葉を尽くして語りたいブログです。

【VIXX】人間であることをやめる献身の物語/VIXX「Voodoo Doll」感想

きっかけはこれでした。

ヤバい。書きたい。

何でこんなにわぁーわぁー言っているのかというと、「何もかも捧げよう」というただ1つの共通した意思だけを残してまったく正反対の楽曲がここに2つ存在するからです。希望に満ち満ちと、愛に酔い眩しい溌溂とした喜びを滔々と歌い上げるONFの「On/Off」と、絶望からの終着点、理性でもって人間であることを辞めようとするVIXXの「Voodoo Doll」。

はっ!!Σ(・□・;)

びりびりします。

ということで、これは前編・後編ということで2部構成です。記事はそれぞれ別ですけれどVIXXは今回、後半はそのうちONFを、公開することとなります。

 

実際、ONFの「On/Off」という曲のメインテーマは「コントロールできない」ということですけれど、ONFがすごかったのはそこだけに留まらず最後の最後に「何もかも捧げよう」(Japanese ver)「僕を君の男にしてくれ」(翻訳されている方の和訳をいくつか拝見したうえでの意訳)というように、愛する者への「献身」がうかがえます。実際「On/Off」は「献身」以上に、「ヒモ」っぽさをさらりと歌い上げるめちゃめちゃヤバい曲かつそもそも「ヒモ」ってなんやねん、「僕を君の男にしてくれ」というフレーズからなんとなく広がりそうなジェンダー論や男性像の固定概念、考え方の歪み、みたいなものにも広がりそうな、ほんとすごい物件なのだと私は勝手に思っているのですが、今日はVIXXです。はい。

 

VIXX「呪いの人形」

MVはグロいよ(でも大丈夫、きっと求肥とかだから安心して見て!!!痛くない痛くない)(clean verもあるから本当に苦手な人はそっちを見るといいよ!!!)

youtu.be

私が(現時点での)人生で聴いた音楽の再生回数をランキングにしたら、多分この曲が1位を獲得すると思う。それぐらい好きで、それぐらい何度も聴いた曲です。

多分ものすごく長くなると思うけれど、個人的にこの曲の大好きなポイントを挙げてみようと思います。もしかしたら主題より長くなるかな。

 

最初からやや細かいところに注目するけれど、この曲とにかく良く拍が揃っていて、惚れ惚れする曲です。拍というかタイミングというのかな。パッと腕を伸ばす。足音が揃っている。しゃがむところが一緒。ちぇかちぇか揃っている。

このパフォーマンスよりキレがあって揃っていて技術的に上かもしれないグループやパフォーマンスはあると思うけれど、揃えるところとそれ以外のメリハリを効かせているパフォーマンスは近年のトップK-POPグループだとあんまり無いかもしれない。今の主流(というものがあるのか果たして)はとにかく揃える。いついかなるときも揃える。遊んでいるようで模範的に遊んでいるパフォーマンス、というのが個人的な印象。(もちろん好きである)

この曲、基本的には移動→揃える→ハッとなる→移動→揃える→ハッとなる→移動・・・の繰り返しだと思っているのだが、本当に面白い。動と静の切り替えがきっぱりしていてゆるっと動いてパッと止まる。そこでカメラさんがそのパートを歌うメンバーをクローズアップする。さ、最高かな。足音をきちんと揃えているので、移動中も無駄を感じないスマートな流れで、このダンスパフォーマンス考えたコレオグラファーさん、天才だなと思っています。(一番の天才の仕事は同じくVIXXのHydeだけれど)

 

物語性あるダンス構成

そして物語性があるダンス構成も見どころの1つ。呪いの人形が召喚されるところ。人形だから誰かに縛られている存在で、鎖みたいにメンバーに繋がれているところ。ぶすっと体が杖で貫かれるところは周囲のメンバーが貫かれる人形と動きがリンクしていることで人形の操られ感を演出しているし、祈っているし、自分でしまいには己を刺すし、ちょっとどうかしてるぜこのダンス(もちろん誉め言葉)。つまりVoodoo Dollのダンスは、VIXXのメンバー扮する6人の人形たちの、悲しみの舞ということです。ははは。すげえ。

 

ボーカル

唐突に言うと、レオさんの声って悲哀を乗せるのにすごく良い声質だなと思っています。こう上品で滑らか。鋭いのだけれど絹のような滑り具合、みたいな。私はよくヴァイオリンみたいな歌い方する人だなぁと思っているですが、本当に艶やかな声の伸び方をする人だと思っています。特に「ちぇーばる~♪」2番の「お願いだから~云々」のパートがすごく好きで、うん、すごく好き(語彙力の放棄)。

 

絶望からの献身

本題に入ります。VIXXのVoodoo Dollは、ある一人の人間が「人間であることをやめる」物語である、と私は理解しています。気高き献身の物語です。

 

VIXXのVoodoo Dollにおける「献身」とは、「この目の前の、自分が最も愛する人物は永遠に自分の手には入らない」という絶望から生まれています。

 

自分がどれほど願っても。自分がこんなにも愛しているのに。自分の最も愛するあの人は自分のことを見向きもしない。この愛する人物を仮に「彼女」と言い換えると、彼女の世界には自分がいない。自分の世界には彼女しかいないのに。このまま時が立てば、自分の存在は彼女の世界から一切なくなってしまう。なかったことになる。それならば、何をしても何もしなくても彼女は自分に振り向いてくれないのならば、自分は彼女の幸せのためにこの身を捧げよう。そういう曲です。 

VIXXのVoodoo Dollには希望がかけらも存在しません。絶望故に彼女の呪いの人形になることにしましたが、呪いの人形として彼女の望みを叶えたとしても彼女が自分に笑顔を見せることはないことが痛いほどわかりきってしまっている。「彼女に尽くしたら、いつかは彼女も自分のことを・・・」なんて下心が一切描かれていないこのVoodoo Dollの世界が、私はとても美しく尊いものだと思っています。

なんと綺麗なことでしょう。なんと、残酷な事実でしょう。

 

この曲の言葉を見ていくと「君のためにこんなことするよ」「自分はこんなことも厭わないよ」という献身の言葉の羅列なのですが、隙間隙間に人間らしさ、その人の苦しみの感情が、厚い雲の切れ間から差し込む光のように見える瞬間があります。

「どうか僕から離れるのだけはやめて」とか

「誰も知らない僕の悲しみは チクタクチクタク すべて消えてしまえ」とか。

気丈に人形として振舞おうとする人間の痛々しさと、隙間にきらめく人間としての生々しい感情に、私の心は動かざるを得ません。正直、真剣にこの曲を聴けば聴くほど、人間として生きていけなくなるような、そういうエネルギーを持った曲です。良かったぁ…日本語の曲じゃなくて。ダイレクトにここで歌われていることを理解できてしまったら、私は日常生活送ることができないんじゃないかってぐらい、破壊力があります。

 

さてここは1つ、対比する点として「何もかも捧げよう」という言葉(これはOn/Offの日本語バージョンの一節)で考えて終わりにしましょう。

 

VIXXのVoodoo Dollには直接「何もかも捧げよう」という言葉は歌われていませんが、それと同等の意味を持つ言葉が出てくると思います。

この曲の「何もかも捧げよう」には未来がありません。ここがこの言葉を吐く人間の終着点。ここでこの人物の人間としての人生は終わります。感情を放棄して(苦しみが無くなるのを願って)人形になろうとしている曲なので。未来がないこと。これが1つの特徴。

もう1つは「喜びの不在」ということ。「何もかも捧げる」というのはあくまで第一の望みである「彼女が自分に笑顔を見せてくれる」「彼女が自分のものになる」が叶わない上での行動。この人物の本意ではあるけれど、こんなことしなくても願いが叶うのならばとっくに叶ってほしかった。そんなある種の「苦々しさ」みたいなものが織り交ざっています。つらいです。

最後に「自分を顧みない献身」ということを挙げたいです。内省的じゃないんです。その段階をとうに過ぎたというのでしょうか。自分がこんな自分だったら。という過程を終えて、いわば「最後の最後の曲」なのです。自分がこんな素敵な自分だったら彼女は振り向いてくれるということを考えても何も変わらなかった結果の話なので「仮に自分が」という思考がなくて、ひたすら、君君君君君君君君君君君君君君君君君君君君君君君君君君君君君君の状態なのですね。Voodoo Dollの「何もかも捧げよう」にはもはや自分を否定する言葉すらない。すごい。

 

ということで、今も昔も、この曲を知ってからこの曲が私は大好きです。

あ?MVがグロテスクだって?なんかきわどいメイクしているビジュアル系アイドルでしょう?だって(誰も言ってません)おま、歌詞を見てから言えや(だから誰も言ってませんって)といつも思っています。

恋は盲目。きっと私が盛り上がれば盛り上がるほど、この曲にとっては良いことにならないのでしょう。そんな気がします。しかし、約5年前に人間であることをやめる献身の物語が歌われていたことは、いつまでも私は覚えていると思いますし、世界は綺麗なんだなー残酷だけれど、と思うことで今も生きることができます。世界は綺麗だと思います。この世界には自分の知らない世界がまだまだたくさんある。

そして気高き献身の物語が美しいと思うことと、献身や執着が他者にとっては異質で脅威となることは矛盾しない、ということもここに記しておきます。ストーカーは、ダメ。絶対。

Vixx 1集 - VOODOO (韓国盤)