根津と時々、晴天なり

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【映画】『羊の木』を観に行ってきました

先日、映画『羊の木』を観に行ってきました。

hitsujinoki-movie.com

 

あらすじは割愛します。

 

とても面白かったです。

丁寧に描かれていたなという印象。

特に、町の情景がきちんと描かれていたのが私は好きでした。深夜の商店街の感じとか、漁港とか、市役所とか、クリーニング屋の内装とか。

これは『漫勉』という漫画家さんにスポットを当てた番組からの受け売りですが、『ソラニン』や『おやすみプンプン』の作者さんは、「場所」を大切にしているんですって。町で生まれ、町で育つ。その人を捉えるにはどこで生きているかは欠かせない要素なのだと。私もそう思います。単純に、町とか街とか建物とか風景を見るのが好きなことも私の場合はありますが。

なので、月末(主人公)が生きている町、そして殺人犯を受け入れる町、そしてちょっとした伝統がある町、が意識されているのが良かったです。

 

「ちょっとした伝統」というのは「のろろ祭り」と呼ばれるもの。海岸線に「のろろ様」という巨大像が居座っているのもどことなく異様です。大仏様みたいだけど、大仏ではない。こののろろ様がいることで、ピリッとした緊迫感が加えられているようでした。もちろん、ストーリーそのもの、受け入れた殺人犯がみんな掴めない人物で不気味で、どうしていいかわからないし、現に周りの人とトラブル起こしているしーーー、という緊迫感もありますが、それとは別のもの?

人間を理解できるとは思わないのですが、それでも同じいきものだしまるっきり想像できない存在ではない。「理解できそうなのに、実は何も理解できていない、でも考え泣なければいけないし、関わらないといけない」それおが人間の怖さなのかなと私は思っているのですが、のろろ様に関してもう理解の範疇を超えているので本能的に怖い。のろろ様って何?

人間に対する怖さと、のろろ様(とそれをめぐる習俗)に対する怖さ、2つの怖さが練りこまれている作品かもしれません。行事もきっちり描いていて面白かったですねー。白装束の隊列とか。

 

印象に残っているのは、ヤクザの大野さんと魚深市に移住してからは清掃員をすることになる栗本さん。

大野さんは、物語序盤、刑務所から出所してきた際に昔の仲間に絡まれたシーンで「あ、この人大丈夫な人や」と安全圏に既に位置していた人だったので、この人の話は安心して見ることができていました。お辞儀がきちんとしていたし、強さみたいなものがあったし。ゆるぎなさ?

栗本さんに関しては、今(2018年3月)絶賛放送中のドラマ「アンナチュラル」で東海林を演じている市川実日子さんが演じられているということで、雰囲気がまるで異なることに痺れました。映画の方が前に撮影されていたと思うので、同時期に異なる役柄を撮ること云々は関係ありませんが、この人、すごいなぁーと思いました。そういえば「シン・ゴジラ」にも出演されていて、また違った役柄でしたよね。栗本さんはとある事情で人を殺めてしまったようですが、昔のことがフラッシュバックしたような、過去に引き戻されグラグラ揺れているシーンがすごく良かったです。栗本さんの生真面目さと、それゆえに制御がつけられない激情で人間としての器が壊れそうな儚さが。グラグラしてましたね。あの瞬間は「あ、、、、この人ロボットみたい...」って思ってしまった。

 

その他のキャストも皆さん良くて、キャスティング最高だなーと思いました。理容師さんとかも良かったし、クリーニングの女将さんもすごく良かった。

 

殺人犯だからといって、みんなが悪い人ではないし(そもそも悪い人って何だ?)事情は様々。己の罪を背負いながらそれでも更生していく人もいれば、己のさがをどうしていいかわからない人もいる。

殺人犯たちがどう生きるかということを描く際に、この『羊の木』は「遺族」という存在を持ちださなかったことも興味深いです。かといって、殺人犯たちに同情しているわけでもなく、淡々と6人の人間とその生き方を撮っているように思えました。きっとここに「遺族」という存在を持ちだすと、また違った問題を提起することになってしまうからだろうなー。それも大切な問題だと思いますけれど。

 

実際、人間は過去を隠しながら(というか語らないまま?)生きているもの、ということもよくわかりました。その人がどんな人か、過去からわかることもあるけれど、「今、肌で感じたことも正しいんだよ」ということを忘れずにいたいなと思いました。

 

 

良かったです。

本当はもっともっと、考えたいこと・考えるべきことがある映画ですが、このような文章で終えたいと思います。

 

映画『羊の木』を観に行ってきました。