根津と時々、晴天なり

大好きなものをひたすら言葉を尽くして語りたいブログです。

【読書】異国と哲学とおしゃべりと ―恩田陸『ブラック・ベルベット』読んだ―

 10月はK-POP秋の大戦である。

 続々とカムバックに名乗り出る名乗り出る。恐ろしい話ですね、と思いながら10月に入りました。色んなアイドルが新曲を発表していて、色々と語りたいのですが、今日は別の話をと思いまして。今日読んで、今日読み終わりました。サクサク読めました~。

 

 恩田陸『ブラック・ベルベット』を読みました。

ブラック・ベルベット

 

 (本の感想かと思いきや、恩田作品に対する熱い思い中心になります。)

 『ブラック・ベルベット』

 あらすじはこちら。

 外資製薬会社に身を置く凄腕ウイルスハンター・神原恵弥。ある博士の捜索を依頼されてT共和国にやってきたが、博士は殺されてしまう。一方、この国では全身を黒い苔で覆われて死んだ人間がいるらしい。ビジネスで滞在中のかつての恋人・橘は不穏な行動を見せる。恵弥が想像だにしない、これらの背景に存在するものとは――?(http://www.futabasha.co.jp/booksdb/book/bookview/978-4-575-23898-3.html?c=30197&o=date&type=t&word=

 

 主人公の神原恵弥(めぐみ、と読む)は過去にも2作で登場していて、いわばシリーズもの。今回は「T共和国」を舞台に、走り回ります。一応ミステリー。謎解きあり。

 恩田さんの作品のファンではあるのですが、神原さんが主人公の2作品は読んだことがなくこれが初めての「神原恵弥」シリーズでした。

 本作の感想を簡単に書いておくと、一言「サクサク読めた~面白かった~」かな、と。ですが、突っ込みどころがないとは言い切れません。私は物語のストーリーがよほど破綻せず、破綻があったとしても余りある面白さがあれば、満足できるタイプの人間です。謎解きの要素は主人公共々読み手も引っ掻き回された挙句「(私は)大したものではない」と感じたし、登場人物たちがそれぞれミステリアスすぎて手の内明かしているけど、それが本当なのか疑ってしまうレベル。まだ何か隠しているなんてあってもおかしくない。しかし物語は終わります。じゃあ「余りある面白さ」とは何なのか。それこそ、私が長らく恩田作品を手にとって読み続けてきた理由なんじゃないかと思いまして、このように語りたいと思ったわけでした。

 

恩田作品に通じる「余りある面白さ」

 熱心な読書家ではないので、恩田陸作品のすべてに通暁しているわけではありませんが、色々な作品を読んでいくつかの「共通点」があるのではないか?と感じております。ぶっちゃけて言うとその共通点が私の中で「合っている」から、恩田さんの作品をつい手にとってしまうのですね。挙げてみると

・登場人物の多くは、理知的で優秀で思慮深い

・「頭がいい」会話

・おしゃべりがだらだら続く

・価値判断をきちんとしている

 

 こういった感じ。

 全体的に、恩田さんの作品の登場人物って「頭がいい」です。作者自身の経歴や経験、環境も影響してくるのかと思いますが、会話が知的で教養にあふれているイメージ。様々な人物が登場してきますが、理性でもって感情を抑えようと心がけている人が多いように思います。しかしそれでも漏れ出してしまう激情の渦!が時々作品自体にピリッと刺激を入れてくれるような、そういう気がしているのです。

 そして、雑学っぽいものを織り交ぜながら、場面場面ポンポン出てくるおしゃべりといったら!誰でもかんでもしゃべり通すような主人公ばかりではないのですが、気の知れた相手にはトコトン話す、という感じの人物も多く、とにかく登場人物たちはしゃべります。『ブラック・ベルベット』だと、

 ムスリムは合理的でね山なんて登らないんだ、とか

 いつか世界を震撼させるパンデミックの話、とか

 古代の町の衛生状況の話、とか

多分作者自身がものすごく想像豊かなのだと、勝手に私は思っています。とにかく1つの物事、出来事から連想ゲームのように想像が広がっていく。そういう想像力豊かなところは私の憧れるところであり、波長に合うのだと感じています。

 さらに、恩田作品の登場人物はそれぞれの価値基準がはっきりしていることが多い。「これが嫌い」「あれが好き」とバッサバッサ言ってくれる(もちろん曖昧な人もいるだろうけど)。こだわり屋が多く、そのこだわりを聞いてみると「なるほど」と思うことも多く、私が読んでいて楽しい理由でもありまする。

 

恩田作品と私

 そうやって考えてみると、私が私である根っこの部分に恩田作品というのは大きく影響しているような気がする。「好きな本はなんですか?好きな作家は誰ですか?」と聞かれた際に、私の中で必ず名前が挙がるのが恩田さんだと思うのだ。

 登場人物たちは私の憧れだった。頭がいい人に私はなりたかったのだった。結局そこまで優秀な人間にはなれなかったけど。久々に原点に触れたような気がして、この『ブラック・ベルベット』楽しかった。

 

好きな恩田作品

 最後に私が気に入っている作品を自己紹介がてら挙げて終わりにしたい。すべて、きちんと文章として好きな理由を語りたいと思っている作品なので、そのうちに。

 

①麦の海に沈む果実

麦の海に沈む果実 (講談社文庫)

 恩田さんの作品で何気に好きなのは、登場人物の名前がユニークなところ。主人公の「理瀬」だって、素敵な響きだ。この作品が好きな人と友達になりたいと思える本。

 

ネクロポリス

ネクロポリス 上 (朝日文庫)

ネクロポリス 下 (朝日文庫)

 ホラーです。怖いです。不気味です。なんというかアカデミックな香りがしていて好きな作品。主人公は院生(だっけか?)で学問に足を突っ込んでいる人たちだし、この作品の登場人物たちもまーしゃべるわしゃべるわ。止まりません。習慣とか儀式とかそういうものを考えちゃう作品。

 

黒と茶の幻想

黒と茶の幻想 (上) (講談社文庫)

黒と茶の幻想 (下) (講談社文庫)

 とてつもなく好きな作品。旅に出るときは必ず持ち歩きたい作品。ハードカバーはえげつないページ数の作品。これもとにかくとりとめもないことをしゃべる作品。派手な出来事は一切ないけど、美しい情景と相まって退屈しない作品。これが好きな人とも熱く語りたい作品。

 

 

 ということで、それではまた。