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根津と時々、晴天なり

大好きなものをひたすら言葉を尽くして語りたいブログです。

#52 『氷菓』再々再々読くらいの果てに―「福部里志的」に生きるとは―

自分が閉鎖的に物事を考えるタイプの人間であることは重々承知なのだけど、こうも「繰り返し」に物事を考えていると、自分で気が付かないうちに何か新しいものを見落としてしまうな、と思う今日この頃。多分すでにいろんなものを手のひらの水のごとく、こぼして生きているのだろう、なんて感傷的になったりして。

 

私は米沢穂信さんの通称「古典部シリーズ」が大好きなのですが(そして同じく「季節限定シリーズ」も好きですが)就活に付随する「自己分析」(という名の泥沼)をいくつかやっていくうちに、「福部里志」という人間になんだか興味を抱くようになりました。あれ?私のパーソナリティって、里志っぽくない?なんて。

 

風呂敷を大きく広げたところでそれを綺麗な形にまとめる力量は今の私になさそうなので、今日は「福部里志」という人間について、色々と考えていきたいと思います。それに伴って『氷菓』の魅力も語れたらいいなぁ、なんて。

実は、福部里志を語る上では、「古典部シリーズ」の『クドリャフカの順番』と、短編集『遠まわりする雛』の「手作りチョコレート事件」は欠かせません。しかし、そこまで語ると私が手一杯なので、あくまでシリーズ第1作『氷菓』を題材にしたいと思います。

 

氷菓』とは

文庫本・あらすじより

いつのまにか密室になった教室。毎週借り出される本。あるはずの文集をないと言い張る少年。そして『氷菓』という題名の文集に秘められた三十三年前の真実―。何事にも積極的には関わろうとしない“省エネ”少年・折木奉太郎は、なりゆきで入部した古典部の仲間に依頼され、日常に潜む不思議な謎を次々と解き明かしていくことに。さわやかで、ちょっぴりほろ苦い青春ミステリ、登場!

 とあります。古典部シリーズは「古典部」という一体何をしているのか、何を目的としているのかわからない部活の内外で、古典部メンバーが日常の謎折木奉太郎を中心に解き明かしていく、日常系青春ミステリです。なので人が殺されたりっていうのはないのですが、特異なのは、物語全体にちりばめられた伏線の数々、です。こういうものが大好きな私には、大好物な小説です。

青春:ミステリ=3:7ぐらいな感じで、学生時代のわちゃわちゃとした葛藤を織り交ぜつつやっぱりミステリーなんです、ってイメージの小説です。

 

氷菓』の登場人物

※紹介文は、TVアニメ「氷菓」オフィシャルサイトを参考に、加筆修正。

折木奉太郎

 

折木奉太郎

「やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことは手短に。」がモットーな省エネ主義者。古典部OGの姉に導かれ、なぜか古典部に入部することに。成績は、ど真ん中。

私コメント)アニメ版の奉太郎はなんだかけだるそう・・・。背は結構高く描かれている。

 

千反田える

里志が言う桁上がりの四名家(彼らが通う神山高校周辺の名家が、十文字、百日紅、千反田、万人橋、と数字が入った苗字にちなんで)の1つ、豪農千反田家のお嬢様。「一身上」の都合により、古典部に入部。好奇心旺盛で、口癖は「私、気になります!」

学年順位でも上位の、優等生。「パーツではなくシステムに興味があるんです!」という、好奇心の良さを勉強にも活かせているタイプ。

私)ひたすらかわいい。しかもウザったくないかわいさ。すごい。

 

福部里志

福部里志

興味があることしかやらない主義の事象データベースを自認する。奉太郎とは中学からの親友。古典部のほかに、手芸部と総務委員会にも関わっている。サイクリングが趣味。似非粋人(奉太郎いわく)。

学業より興味があることを優先させてしまうので、成績は悪い。

 私)今日はこの子について語ります!

 

伊原摩耶花

 伊原摩耶花

奉太郎とは腐れ縁。小学校・中学校が一緒。里志に好意を寄せている。

漫画研究会所属。古典部も里志を追っかけて入部。背は低め。小説では、小学生に間違われてもおかしく無い、という表現も。成績はそこそこいい。

私)まず名前からして悪意がある気がするけどね。他人にも自分にも厳しい摩耶花ちゃんなのです!

 

福部里志という人間は?(折木視点)

クドリャフカの順番』では古典部メンバーそれぞれの視点から物語が語られる場合もありますが、往々にしてこの小説の視点は「折木目線」で進められます。なので、あくまで折木の視点から里志はどう見えるのだろうか?少しばかり挙げてみます。

 

口の減らないやつだ。(中略)わが旧友にして好敵手、そして仇敵。里志は男にしては背が低く、高校生になってさえ遠目には女と間違うようなうらなり青瓢箪に見えるが、中身は違う。(中略)目と口元に常に含んだ笑みと、いつもぶら下げている巾着袋、そして減らず口がトレードマークになる。部活は手芸部

 

う~ん。里志をライバル視するほど他者への関心を見せたことがあるのかい、ホータロー、って思うんですけどね。ただ「薔薇色」(これ、実は物語のキーワード)な学園生活の象徴が、奉太郎にとっては「里志」なのだ、ということだと思います。色んなことに興味を示し、マイペースにほどほどにそれを楽しむ。

 

里志が驚いたことに俺は驚いた。こいつが物事にそれほど新鮮な驚きを以て接する人間ではないと知っていたからだ。

 

奉太郎も冷めているけど、里志も冷めているように見えるってことですね、奉太郎には。「驚き」さえも社交辞令的に、容易にコントロールしてしまえるのが里志かもしれませんね。対照的に女性陣(える、摩耶花)は自分の感情に素直で他者にもダイレクトに伝えちゃう節があって、その比較とか面白いかも。

 

こいつは無用な知識は無駄に豊富なくせに、こと学業となると全く興味を示さない。(中略)里志にとって重要なのは、里志が重要だと思ったことだけだ。

 

うわ~。一気に里志のことが好きになった(笑)

それは、私にもそういうところがあるからですね。里志ほど無邪気に知識を広げようと思っていないし、現に私の知識の底も広さも浅いし狭い。ただ、そういう傾向は自分のなかにあって、勉強もなんとか面白く思わないとやらないし。

 

先ほどの文に続いて

それはきっと不遜な態度なのだろうし、長い目で見れば愚かなことだという結論が下るかもしれない。だがそれさえ里志にとっては関心外だろう。それを自由人と呼べば、聞こえが良すぎる。要するにあいつは汎用馬鹿なのだ。

 ということで、自分のこだわりには全力で乗っからないと嫌だ!って感じに見えるようですね。どんなに他人が彼の態度を諫めようとも、里志が自分で納得しないと改めないんです。そしてきっと彼はそういう自分の態度から出た結果に対しては文句を言わないと思うんですよね。

 

(里志)「僕はね、ホータロー。まわりがどうであれ基本属性が薔薇色なんだよ」

(折木)「いや、ショッキングピンクだ、むしろ」

(中略)

(里志)「例えば僕は基本属性がショッキングピンクだから、誰かが僕をなら色に染めようとしてもダメさ。染まってあげない。

(中略)

(里志)「なんだいホータロー、僕が総務委員会や手芸部なんかで八面六臂してるからそんなこと言うのかい?冗談じゃないよ、カンヤ祭の日程表作りを手伝うのも、曼荼羅を縫うのも、全部僕の趣味にあったからだよ。そうでなきゃ、誰が日曜から夏休みから、サイクリングの快感を犠牲にしてまで学校に来たりするもんか」

 これは、里志について里志本人がかなり語った一場面ですね。「染まってあげない」というところが、きっと奉太郎の指摘する「不遜な態度」に見えちゃうところだし、でも、里志ははっきり言うんですよね「染まってあげない」って。彼を彼たらしめたものって一体何なのだろう、って私気になります。

 

口調は冷静だが、なんとも投げ遣りな言い草だ。里志の知識は深遠で情報は豊富だが、どうも使い方に無頓着な傾向があるのは知っていたが・・・。

 

情報をどう活かすかどうか、それが正しいのか、どうでもいいんですかね~。というか里志は「情報を集める」「知る」ことに快楽を感じるのであり、集め終わったがれきには興味がないのかも。

 

「データベースは結論を出せないんだ」

 里志の口癖。なんだろうなぁ。集めた情報を元に何かを構築するのに関心がないし、自分にはそういう才能がない、ってことをどこかで見限ったのだろうか?折木と一緒にやってきたからこういう結論に至るのか、難しいところ。

 

里志的に生きる

ここまでを踏まえて、私は自分の生き方に「福部里志的生き方」を取り入れたいと思っています。その一部を。

 

氷菓』の登場人物の中で、一番自分と近しい考え方(違和感を抱かない生き方)は里志だったし、やはり自分が生きてきて「絶対こういうやつにはなれない」と思う瞬間って結構あったりします。それが私に美しく見えたとしても。例えば、「多くの友人に囲まれ休日もBBQに勤しんだりどこかに出かけたり、飲み会で社交的に話題を提供し場を和やかにする」みたいな人間って素敵だなって思うんですよ。どうして私はそういう風になれないのだろう、て。しかし、人には向き不向きがあるし、不向きなことにチャレンジすることも奨励されると同時に、自分の強みを思いっきり生かす生き方だって許されていいはずだって思うようになりました。

 

色んなことに興味を持つ。

その過程を楽しむ。

情報の結節点になる。

物事に頓着しない。

 

そういうところでしょうか?『氷菓』の段階では。ただ、これはすごい個人的な生き方だと思うし、それで済めばいいけど人に迷惑をかけちゃうこともあると思うんです。相手のことも慮ってね、生きていけたらいいと思うよ里志くん。

 

氷菓

作品自体はとても読みやすいと思います。文章の好みもあると思うので難しいですが、短めですし無駄なところがありません。作品全体がつながるよう、作られています。

青春のほろ苦さを感じるという点では、現役学生より学生時代が過去になった人たちの方が胸にくるものがあるかもしれません。軽いけど、実は軽くない。噛めば噛むほど奥行きが出るような小説ですので、気になった人は手にとってもらえると嬉しいです。

またアニメもありまして、原作ファンの私も「神アニメ」と思う、クオリティが高い作品になっています。作画のきれいさは流石京アニ京都アニメーション)と思ったし、声優陣もピッタリ。里志のちょっと高めの声で皮肉屋っぽいところとか最高でした。

小説苦手~って人はアニメでもいいですね。

 

 

ということで、今日はこのあたりで。最後に余談ですが、私が一番好きなのは『クドリャフカの順番』です。

 

それでは。